• ペトリット・チェク独占インタビュー | 名古屋ギターフェスティバル

    ペトリット・チェク独占インタビュー


    コラム 

    2019年の情報です。 本年度の開催情報はホームページトップからご確認ください

    11月29日、宗次ホールで素晴らしい演奏を聞かせてくれたペトリット・チェク。今回は彼の独占インタビューを公開!

    輝かしい経歴

    Petrit Ceku
    1985年生まれ。プリズレン(コソボ)出身。ザグレブ音楽院を卒業したのち、巨匠マヌエル・バルエコにその才能を見出され、名門ピーボディー音楽院(アメリカ)にて研鑽を積む。コンクール受賞歴も数多く、アレッサンドリア国際ギターコンクール(イタリア)、パークニング国際コンクール(アメリカ)、ビアジーニ国際ギターコンクール(イタリア)といった巨大コンクールを制し、輝かしいキャリアをスタートさせた。幅広いレパートリーを持ち、完全無欠なソロリサイタルはもちろんのこと、ボルティモア交響楽団、チェコフィルハーモーニー管弦楽団を始め多くのオーケストラとも共演しする。そんな経歴の中でも、最も目立つ活躍といえばあの2Cellosのステファン・ハウザーとの共演だろう。チェロと対等に音で会話をするチェクの素晴らしい音楽性にも注目が集まり、世界の様々なエージェントが彼を招聘することになった。そして現在ヨーロッパだけでなくアメリカやアジアなど各国で演奏する。その精巧で美しい感受性と力強く圧倒的な表現力は聴衆を魅了し続ける。

    日本という国、文化について

    ペトリットは世界中に演奏に行っているけど今回ようやく日本公演が実現したね。日本の聴衆も待ち望んでいたと思うよ。日本では今回は宗次ホール(名古屋)と武蔵野市民文化会館(東京)の2公演だね。

    日本という国はやはりいつか行ってみたい国だったから今回演奏で来ることができてよかったよ。多分みんな言ってることだと思うけど、街を歩いていて思うのは本当に綺麗で人が親切。ゴミが少ない。音楽ホール事情は今のところ名古屋しかわからないけど宗次ホールは音響も素晴らしいし世界屈指のホールだったね。武蔵野も評判が良いから楽しみにしているよ!名古屋では共演のGEN(松田弦)も素晴らしかったね!

    日本のホールは遮音性も良くて、海外のゲストからも評価が高いからね。お客さんも集中力が高いのも日本の特徴かも。あと、あんまり観光はしないタイプだよね。名古屋に滞在してる時も割とリラックスして過ごしていたね。

    もちろん観光することもあるんだけど世界各国に行って、基本的にはそこに「滞在する」ことが好きかな。マイルを貯める人生(笑)。あまり無理にあちこち観光に行ったりはしないね。近くにあるものを食べて、歩いて、空気を感じる。そうだ、食はやはり大事だから色々食べてみてる。昨日はラーメン食べに行った(笑)スイカ以外ならなんでも大丈夫。

    クラシックギターを始めたきっかけ、少年時代の思い出

    ギターを始めたきっかけは?

    父が趣味でギターを弾いていたので自然と始めていたね。まあよくある始まり方かも。ギター音楽はよく聞いていたよ。

    例えばどんな音楽を聴いていた?

    自分の中でのギターヒーローはいっぱいいるけど、やはり師匠のバルエコだね。あと山下和仁は小さい頃にカセットテープを聴いていたかな。当時はコピーのコピーのコピーくらいの勢いでダビングしてたから擦り切れてそれはもう酷い音質だったけどね(笑) 愛聴していたよ。

    学生時代に他に打ち込んでたことってあるかな?

    バスケットボール!自分で言うのもなんだけど結構得意だった。でも15歳の時にプロでもあった叔父さんとチーム組んで2on2やった時に気合入りすぎて指を怪我してしまって、「ああ、これじゃギターとの両立は無理だな」と思ってバスケはやめたんだけどね。

    自分も学生時代バスケやってたけどNBAとかよく見てた。時代的にはカール・マローン、ヴィンス・カーター、ケヴィン・ガーネット、コービー・ブライアントとかが出てきたあたり。クロアチアだとトニー・クーコッチがシカゴ・ブルズに入ったりとかした時代だね。

    懐かしい!!まだジョン・ストックトンがギリギリ活躍してた時代だよね、あとレジー・ミラー、シャキール・オニール、スコッティ・ピッペンとか。最近は全くバスケットボールは見てないんだけど久しぶりに話したよ(笑)

    コソボ、クロアチアのギター事情

    今ペトリットはクロアチアに住んでいるんだよね?クロアチアではギター事情は?

    そう、クロアチアはどの国に行くにも位置的にとても便利で綺麗なところだよ。そしてクロアチアの若手ギタリストは・・・みんな本当に上手い。特に今の大学生くらいの年代はかなりの高水準。例えばクロアチア出身のアナ・ヴィドヴィッチゾーラン・デュキッチの影響もあってか子供の頃からギターをやるのは普通のことで、音楽院でも学生たちには特に人気のある楽器と言えるかな。

    国際コンクールの思い出

    一番初めに優勝した国際コンクールって何かな?

    今でもよく覚えている。17歳の時に受けたワイマール国際コンクールだね。その時に使ってたギターが今井勇一さんのギター。コレクターの人に貸してもらってたんだけどすごく良いギターだったね。

    コンクールといえばイタリアのアレッサンドリア優勝でペトリットの名前を知ったんだけどあれは2007年だったような。あの時のことは覚えている?

    もちろん。話すネタがいっぱいあるよ!イタリアって実はコソボからは割と近くて1時間くらいフェリーに乗れば着く距離で。その時は21歳で学生の身分だから参加するお金も全然無くて、知人から支援してもらったお金300ユーロを握りしめて挑戦したんだ。もちろん優勝しようと思って参加しているのだけどイタリアについて案内されたホテルがまさかの4人部屋で練習する場所もない状況でこの状況ではさすがにきついと思ったんだよね。

    その状況をどうやって打開したの?

    コンクール事務局の人に近所のホテルリストを貰ってとりあえず一人部屋を5泊予約したんだ。とにかく練習したかったからね。ただ用意したお金から移動費と参加費を引いたら残り55ユーロしか持ってなくてね。でもそのホテルは一泊65ユーロで・・・。ダメだったら全力で謝ろうと思ってたよ、hahahaha!!

    ハハハハハ!っておいwその時は優勝したからだいぶ賞金(当時約150万円)もらえたんじゃない?

    そう、首の皮一枚で助かったよ。それから無事優勝できて賞金も手にして、ホテルチェックアウトの時がやってきたんだ。当然賞金持ってるから「さあどうぞ!5泊分!」と払おうと思ったら、ホテルの支配人がやってきて「あなたは先日のアレッサンドリア国際コンクールの優勝者ですよね?お金は要りません。ご利用ありがとうございます。」と。感謝してもしきれないね。あの時自分は無名に近かったからキャリアの中でも特に重要なコンクールだったと思う。

    巨匠バルエコのもとでの研鑽

    その後ペトリットはヨーロッパで頻繁に演奏してたよね。でもそれからしばらくコンサートでペトリットの名前を見かけなくなったね。

    アレッサンドリアのあとしばらくしてからアメリカのピーボディ音楽院に留学したからね。先ほど少し話したけど昔からマヌエル・バルエコに憧れていていつか習いたいと思っていたんだ。彼のもとでは多くのことを学んだよ。マヌエルは「ペトリットはコンクールとコンサートしすぎだから少し落ち着いて勉学に励みなさい」と。今思うけどそれは正しいことだったと思う。ゆっくり曲と向き合うことで自分の可能性をさらに広げることができた。マヌエルの教えにはおそらくギターを弾く人すべてに向けての有益なアドバイスが詰まっていると思う。

    確かにピーボディーには多くの実力者が在籍しているね。その後再びコンクールに出場したのかな?

    そうだね、一度ゆっくり勉強して力をつけてまた挑戦してみたよ。その結果ビアジーニ国際、パークニング国際、ジョアン・ファレッタ国際など大きなコンクールでいい成績を残すことができたのが2012年あたりだね。

    演奏の特徴

    さて、先日は素晴らしい演奏だったね。一つ聞きたいんだけどペトリットは全く手元を見ないで弾いている時間が多いよね。演奏中はかなり没頭しているよね。すごく速いフレーズも大きな音の跳躍とか普通だったらミスしそうで怖くて見てしまうと思うんだけど何か理由があるの?

    答えは単純。見ない方が集中できるから。もしミスをしてもそれで音楽が変わるわけではないし、その時はその時だよ。マヌエルも心配して直そうとしたけど結局それは直さなかった(笑)あと、コソボは知っての通り、昔は戦争もあったから真っ暗闇で練習してたし。ってこれは半分冗談ね(笑)

    個人的な意見なんだけどペトリットの演奏の芯は昔から変わらないよね、ダイナミックで歌心がある。初めてナクソスのCDで聴いた時から「これはまた面白い演奏をするギタリストだな」と思ったんだよね。最近のギタリストはノーミス、大音量、的な流れの中でペトリットは各声部が生き生きと歌心に溢れて、迫力のあるガッツ溢れる演奏スタイル。そういった若手はなかなかいないと思うよ。

    ありがとう。音楽を分析すること、技術的なこと、歌い方を学ぶことで誰しも成長すると思うのだけど確かに自分の「ああしたい、こうしたい」という部分は変わらずにそれが音楽に出ているのかもしれないね。

    使用ギターについて

    前記事でも紹介したけどペトリットの使っているギターは側面版に穴が空いているけどあれは誰のギターかな?

    Ross Gutmeierのギターだね。彼はアメリカのボルティモアに住む製作家だよ。穴だけじゃなくて内部構造にもカーボン繊維を使ったり、現代的なギターだね。もちろんトラディショナルなギターも大好きで今一番好きなのはイグナシオ・フレタ

    確かにこの前も荒井貿易で試奏して持って帰りたそうだったね笑

    フレタ、ラミレス、ハウザー、トーレス様々な名器を弾けたのは素晴らしい機会だった。持って帰れるようになんとか交渉してよ(笑)

    驚くべき才能の片鱗

    あと試奏してた時にジュークボックスみたいになんでもリクエストに答えて弾けたけど今弾いて!と言われたらどのくらいストックあるの?

    数えたことはないけど例えば昨年とかはコンチェルトも室内楽曲も含めると100曲くらい暗譜してたかも。

    あとバッハのチェロ組曲も全て覚えているよね。「この前1~6まで好きな数字二つ言って」ってペトリットが言った時に例えば「5の1」って言ったら5番のプレリュードをさらっと弾くし、、、。一体どうやって暗譜してるの?

    バッハの場合は和声で覚えているからほぼ忘れることはないかな。同時にその方が曲を多面的に捉えることができるしね。基本的にチェロやヴァイオリンなど旋律楽器の無伴奏の曲は単旋律で書かれているけどそれは当然和声を表すこともあれば、メロディーになっていることもある、コーダのように見せつけるように描かれていることもある。一本の線で書いているのに巨大な絵になっている。それが魅力的だよね。他の作曲家でも同じだけどその曲に興味を持つことがとても大事。

    教授活動について

    最近はグラーツの音楽大学で教鞭も執ってるんだよね?

    今は室内楽を教えているよ。グラーツ音楽大学の教授枠には300人の音楽家が応募してそこから選ばれたからとても光栄なことだね。演奏活動も多いから今は2週間に一回教えに行くだけだけど(笑)グラーツの教授陣は世界でも指折りでルーカス・クロパチェフスキー、パオロ・ペゴラーロという尊敬すべき同僚と共に仕事ができて嬉しいよ。学生たちも世界中から集まっていてレベルが高く、才能溢れる学生たちだよ。

    これからの目標について

    今現在演奏活動と教授活動のバランスがとても良くて、これからもどんな人生になるかはわからないけど今まで通り、音楽に没頭していたいかな。もちろん今回、日本でも多くの素晴らしい友人、聴衆に恵まれて、幸せな時間を過ごせているからまたいつか来日できたらいいなと思う。アジアでのコンサートツアーもしてみたいね。

    再来日ツアー是非計画したいね。今回の演奏で皆すっかりファンになったと思うよ!来日してくれて本当にありがとう!

    こちらこそ!あ、一つ質問!東京から新幹線に乗った時にみんな電車内でご飯食べてたけどあれは日本の文化?

    あ、それは駅弁というやつですね(笑)。文化とも言えるかも。是非東京へ戻る新幹線で富士山見ながら食べてみてね。もしアイスを頼んだら少し待ってから食べるようにね。

    OK!!

    みんなにシェアする